SHOOTING☆STAR ◇ 第1話 出会いは突然に☆
人通りの多い表通りを、マキシミンは一人歩いていた。
特に目的もなかった。 散歩…というか、気分転換と言った方が近いような気がする。

無駄なシワ一つない白いシャツと、ブラウンのスーツ。
ポケットに手をつっこみ、ジャケットのボタンも止めずに歩く姿は、だらしない事この上ない、が、身に着けているものから、それなりの身分だと言う事が分かる。

この異様な姿に、すれ違う人々は、思わず見入ってしまう。

マキシミン本人は全く気にしていないようではあるが。


マキシミン・リフクネ。
父がいくつかの事業を立ち上げており、どれも成功を収めている、凄腕の人物だ。
その息子であり、その才能も少なからず受け継いでいる。
……が、マキシミン自身はどうでもよかった。
だから、こうやって、平気で父の顔に泥を塗れる。

所詮は父の名誉であり、自分のものではないからだ。

他人になんと言われてもいい――俺は俺だ。そう、考えている。


しかし、自分の弟、妹達は健気にも、父の期待にそえる様にと頑張っている。
その様子は、とても不愉快で、そして比較される対象となるわけで…。
それが嫌で、実家を出た。
今は、ナルビクにある、別宅に住んでいる。


目の前を通り過ぎる人々を眺めながら、マキシミンはぼんやりと考えていた。

もし、『普通』に生まれることが出来たなら、どんな生き方をしたのだろう――と。


――ドンッ

物思いにふけっていると、突然、真正面から衝撃がやってきた。
何事かと思い、胸辺りを見ると、薄汚れた布――帽子が見えた。
どうやら人にぶつかったらしい。

自分の不注意といえば不注意ではあるが……何もこんなにど真ん中にジャストヒットしくてもいいだろう!
そう思うと、なんだかイライラする。

相手はというと、悪びれた様子もなく。

「ごめんよ!」

そういいながら、横を通り過ぎようとした――

「……っと待った。」

「え?」

マキシミンは、すれ違いざまに相手の腕を掴む。

「…なっ…何するんだよ…!」

大き目の汚れたジャケットとパンツ、目深に被った帽子の少年。
片腕を掴まれて、何とか逃げようともがく、が、その拘束は固く、解かれる様子はなかった。

「……離せよ!」

「…なら、返せ。」

その目は、とても冷たく、見据えていた。
その表情に、一瞬少年が怯む。

「な、何のこと?」

「財布だよ…スったろ?今。」

「…!!」

…図星だ。
表情はわからないが、今まで暴れていたのが嘘のように止まった。
明らかに動揺している。

――まだまだ青いな。

思わず、笑みがこぼれた。
それが気に入らなかったのか、少年は低い声で、言った。

「離せよ。」

「子供の癖に耳が遠いのか?言ったはずだ、『なら、返せ。』と。」

「……離せ、でないと……。」

「でないと?何だ?」

少年の反抗。どうせ些細なものだろうと、嘲笑する。
明らかにそれは、少年を見下した態度であり…。
少年は、更に不機嫌になる――

と、思われたが、にやりと笑った。そして、


「助けて!こいつ、僕に変なこ…
「うわああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


マキシミンは、思わず叫んだ。

何言い出すんだこのガキ!!言っとくが、俺にそんな性癖はないっっ!!!

…そういう問題ではない。

ふと、視線に気づき、辺りを見回してみると……みんな、こちらを見ていた。
しかも、明らかに、不審人物を見るような目つきで…。
挙句の果てには、ところどころでヒソヒソと会話している声が聞こえる……。

あぁ、最悪だ…!!とにかく……………逃げよう!!

「…来い!!」

「ちょっ…離せってば!」

どうあっても、財布は逃したくないらしい…。
マキシミンは、半ば強引に少年を引きずって、そこを離れた。
周囲の異様な視線が、消えゆく二人をずっと見つめていた……。





「…痛いってば!!」

「…てめぇ人が下手に出てりゃ、いい気になりやがって!」

「だったら離せよ!」

「その前に返せ!!」


ちなみに、ここは表通りから離れた路地裏。
ここなら、心置きなく大声が出せる!…ってそういう問題じゃねぇ!!

「返さないなら…こっちにも考えがある。」

「…え?」

一瞬、少年が怯んだ。マキシミンの目が、思いっきり据わっていたからだ。
いや、目だけではない。マキシミンの身体から、どす黒いオーラが染み出している……様に見えた。

「そういやぁ、さっき『変なこと』がどうこう言ってたなぁ? ……なんなら?そっち関連の奴らに売り飛ばしてもいいんだぜ?」

「…なっ…なにそれ勝手に売らないでよ!」

「うるせぇ。人のもん捕っといて言える口か?あぁ?」

「……だ…だから………捕って…ないっ……て…。」

「あ?やけに逃げ腰じゃねーか?さすがに売られるのは怖いか?」

どう見てもカタギには見えないマキシミン。
少年も、この威圧感のせいで、先ほどまでの勢いは消えてしまっていた。

さすがに、戦闘放棄した相手にこれ以上突っかかるのは萎え……じゃなくて、可哀想に思えてきた。

ふと、あることを思いつく。
マキシミンは思わず、不適な笑いを浮かべる。
その異様な雰囲気に気づき、少年は身体を強張らせた。

「…な……なに…?」

「いや、別に?今すぐ財布を返してもらえれば、売り飛ばさずに済ませてやるぜ?」

「………ほ、ほんとに…?」

こいつ認めやがった!…ふっ、やっぱり子供だな!

マキシミンは思わずガッツポーズをした……心の中で。

少年は、躊躇いながらも、服の中から財布を出して渡した。
その手は震えている。
それはまるで、肉食動物に狙われた、小動物のような。

財布を受け取ったマキシミンは、満足そうに頷いた。
少年はその様子を見て、安堵した。

「…じゃ、僕はこれで…。」
「誰が、『見逃してやる』と言った?」

「………え?」

一瞬にして、顔が強張る。
一体、何をされるんだろうか?……少年の頭の中に、次々と良からぬ想像が溢れてきた。

それを知ってか知らずか、マキシミンは怪しげに笑い――

「喜べ、お前を俺の家で雇ってやろう!」

「…は?」

「ただし!」

「…ただし?」


マキシミンは、少年を指差し、そして高らかに言い放った。

「一生!!タダ働きだがな!!!」

「えええええええ!!!??」

そして、マキシミンは、未だ困惑している少年を引っぱり、笑いながら帰路に着いた。





リフクネ家ナルビク別宅のリビング。
マキシミンは、中央にあるソファで寛いでいた。
新聞に目を通しながら、コーヒーを啜っている。

連れてきた少年は、家につくなり他の使用人に、風呂と着替えをさせるよう言いつけたのだ。
あの風貌は、どうせろくに風呂に入っていないだろう。
まぁ別にどう変わろうと全然興味はないが。

目が、そうでも良い記事に移ったところで、扉をノックする音が耳に入った。

「あぁ。」

と、答えると、扉から乳母が出てきた。そしてもう一人。
乳母の影に隠れるように、ついて来た人物……よく見れば、黒いワンピースに、白いエプロンを身に着けていた。
…つまりはメイドなわけで。
マキシミンは、自分の使用人の顔について覚えていない。
…そんな事どうでもいいからだ。
しかし、なんで今ここでメイドが出てくるんだ?
新入りが来るなんて聞いたことがない。

難しい顔でしばらくの間、沈黙しているマキシミン。
その様子を見て、隠れていたメイドが、思わず顔を真っ赤にして、叫んだ。

「…なんだよっ!どうせ僕にはこんな格好似合わないよっ…!!」

…………どっかで聞いた声………………まさか…?


「…………俺は、男に女装させる趣味はねぇ!」

「はぁ!?」

この男に、少年は実は女の子だった……という発想はないのだろうか?
あまりの鈍感さに、乳母が思わずフォローを入れた。

「……失礼ですよ?坊ちゃま。この方はれっきとした女の方です!」


「………………………………は?」


はっきり言われても、まだイコールに結びつかない様子。
少女はうつむいて、震えていた。別に、男らしく振舞ったわけではない。
それなのに……これほどまでに勘違いされて、はっきり言われて、悲しくないわけがない。
少女の悲しみを感じた乳母は、この鈍すぎる坊ちゃんにとどめの一発を放った。

「この私が、自ら、身体を洗って、着替えさせたんですから、間違いありません!」

「………………………マジかよ……。」

さすがのマキシミンも、現実を受け止めたらしく、頭を抱えてうなだれてしまった。
その様子を見て、満足げに微笑み頷く乳母。
そして、少女を見ると―――

「ちょっと!なにそのあからさまな反応っ!!そんっっなに僕が女だと気に入らないの!!??」

……悲しみじゃなくて、怒りで震えていたのですね…。
などと、乳母は冷静に考えていた。
あまつさえこの家の主に、叫び散らしているのに、止めようとはしない…。

「いくらなんでも失礼なんじゃない!?こんな格好までさせて!!なんだよその態度!!」

それどころか、乳母は少女の言葉に納得するように、深く頷いていた…。

「あぁ、それとも男の方がよかったとか?…ひょっとして、君、そっちの気があるんじゃないの!?」

さすがのマキシミンも、その言葉にぴくりと反応し――

「ふっざけんじゃねぇ!!!お前が、紛らわしいのが悪ぃんだろ!!?」

「なんだよ!!勝手に勘違いしたの君じゃないか!!」

売り言葉に買い言葉……完全に火がついてしまったマキシミン。
二人の間に見えない火花が飛び散った。

乳母は……というと、この異様な雰囲気に怯むことなく…ただ、頷いていた。

「あれじゃあ、『勘違いしてください』って言ってるようなもんじゃねーか!! そういうんだったら少しは女らしくしてみろ!! まず!その足!!スカートはいてるくせに大股開くな!!!」

「だって仕方ないじゃないか!怒ってるんだから! 足開かないで啖呵なんか吐けないよ!!」

「何がどう仕方ないんだ!頭おかしいんじゃねーの!?」

「ってか謝ってよ!!失礼なこといったんだから!!」

「俺は謝らない!寧ろ謝る理由が分からないっ!!」

「はぁ!?君本気でそんな事言ってるの!?信じられないっ…! 普通間違えたら謝るのが礼儀ってもんでしょ!!? 君それすら成り立ってないって、人としてどうなの!!」

「さっきから聞いてりゃぁでかい口叩きやがって!! 大体お前は使用人なんだよ!!主人に向かってなれなれしすぎるんじゃないのか!?」

「僕は使用人として認めた覚えはないよ! 君が勝手に決めたんじゃないか!僕は絶っっっ対君の事『主人』なんて呼ばないからっ! そう呼ばれたいんならそれらしく振舞えばいいじゃないか!」

「うるせぇ!悪いが俺はこんななんだ!!変えるつもりなんかこれっっっっっぽっちもないね!!」

そう言ってマキシミンは、親指と人差し指を思いっきりくっつけた。

「それを言うなら僕も僕だよ!僕も絶対変わらないから!!」

「…あぁマジで腹立つ…!」

「それはお互い様だよ!僕だってムカツいてるよ!」

「……やんのか…?」

「…返り討ちにしてあげるよ…!」

二人から発せられる火花は、より一層激しくなり…まさに一触即発の状態で…。
周りには誰も止める人などおらず…いや、いてもとても止められそうにないが…。

この後二人は、延々と言い合いを繰り広げ、やがて二人の腹の音で一旦は収まった。
…が、これはまだまだ序章である…。

そして、これから二人は、死闘という名の日常をおくる事となった。


しかしあくまで二人にとって、であり、端から見れば、それは一種のコントにしか見えない、ということを付け加えておこう。

まぁ、どうあれ、楽しい主従生活がスタートしたのであった……。
と、言うわけで出会い編でした。(笑) …てか、イスピンのイの字も出てこない…!(汗)

基本、行き当たりばったりであんまり何も考えていないので、話が変な方向にいくかも…です。 とりあえず他メインキャラ6人は出そうと思います。
blog up 061224 / remake & site up 061229
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