■ Maximin & Ispin [ first love ] 3
「あっれー?イスピンはどうしたの??また残り??」

ルシアンはそう、玄関口で帰ろうとしていたティチエルとレイに言った。
二人は黙って頷いた。

「最近なんか付き合い悪いよね〜。どうしたんだろ?」

「隣のクラスの子に聞いたんですけど、放課後に委員会はやってないって…。」

「…一週間ぐらい、経つんじゃないかな?」

「聞いても、曖昧にしか答えてくれないし…。」

考え込む一同の中、ルシアンの口元がにやり、と笑った。

「…これはきっと何かあるね!」

皆一斉に、ルシアンを見た。
彼はとても楽しそうだった。

「明日、後つけてみよう!何か分かるかも!!」

「え〜…つけるんですかぁ…?」

「それって、プライバシーの侵害じゃ…。」

「二人は気にならないの??」

「…それは…気になるけど…。でも、ねぇ…。」

「…うん、悪いわ…。」

二人は、あまり乗り気ではない。 ルシアンにはそれが不満だったらしく、あからさまに頬を膨らませて二人を睨む。

「えー、何でよ!隠し事するイスピンが悪いんだよ!
僕ならともかく、二人は友達なんだから、知る権利はあるよ!」

いつになく熱心なルシアン…その勢いに二人は顔を見合わせ、
そして力なく頷いた。
ルシアンは思わずガッツポーズをとる。

「じゃ、決まりだね!明日、イスピンの後をつけよう!」

一人ノリノリなルシアンを見て、他の三人はため息をつくしかなかった。


「…ルシアン。」

「何?ボリス。」

家に帰る途中での事。
ボリスはルシアンに聞いた。

「イスピンの事なんだけど…どうしてそんなに気になるの?」

「どうしてって…ボリスは気にならないの?」

「そりゃあ…気になるけど…後つけるとか、そこまでする必要ないんじゃないかなって…。」

「分かってないなー。」

ルシアンはちちち、と得意げに指を振った。

「上手くいけばさ、イスピンの弱みを握れるかもしれないんだよ!
あのイスピンの!今まで苛められてた恨みを晴らせるかもしれないんだ!
こんなチャンス、絶対逃すもんか!ざまーみろっ!!」

がはは、とルシアンは豪快に笑った。
ボリスは、がっくりと肩を落としたのだった…。




次の日、やはり今日もイスピンは二人と一緒に帰らなかった。

イスピンが、教室から出るのを合図に作戦は開始された。
イスピンの数メートル後ろを四人は物陰に隠れながら進んでいく。
すれ違う生徒達からは不思議そうに見られたが、そんなことは気にしていられない。 (少なくともルシアンは気にしていなかった。)
お世辞にも探偵並とはいかないが、四人の尾行はかなり上手くいき、 迷路庭園までイスピンに気づかれずに着くことが出来た。

「わぁ〜…学校にこんなところがあったんですね〜。」

「これって迷路だよね…ふ〜ん、こんなところに毎日通ってたのかぁ〜。」

「で、どうするんだ?」

「どうするって決まってんじゃん!中に入るよ!!あやしいもん!」

「そうですかぁ?」

「だってさ、迷路で遊ぶんなら絶対絶対ティチエルとレイも誘うでしょ? 一人で来たってことは、知られたくない何かがあるってことだよ!! だから絶対怪しい!!!」

ルシアンは燃えていた。

「そう言われれば…そうかもしれないけど…。」

「あーもうっ、うるさいな〜!入るったら入るの!!!」

そういって、ルシアンは迷路に飛び込んだ。
三人は彼を制止しようとするも、ルシアンは立ち止まることなく迷路の中に消えていった。
三人は顔を見合わせ、ため息をつき、意を決したように彼の後を追ったのだった…。




ルシアンを筆頭に、四人は迷路を進んでいく。

「えーっと…こっち!」

「そっちは来た道よ。」

「あー…じゃあこっち!!」

「その先は行き止まりだったはず…。」

「ん〜じゃあこっちだ!!」

もしルシアン一人だったら、一生出てこれないかもしれない。

そんなこんなで迷いに迷った挙句、ようやく開けた場所に出た。
迷路に入って一時間は経ったに違いない。

そこに出た瞬間、四人は慌てて身を隠す。
目の前に、イスピンがいたからだ。しかしイスピンはこちらに気づくことはなく、誰かと話しているようだった。

「ん〜…だれかいるのかなぁ…。」

「え、他に誰かいるんですかぁ?」

「……陰になっていて見えないね…。」

「……誰かしら…。」

四人は垣根の陰から必死でイスピンの様子を探っていた。
イスピンの向かいに誰かいるようなのだが、柱の陰で見えなかった。

「う〜〜〜ん、もうちょっと…もうちょっと…。」

「あんまり押さないで…ばれちゃう…。」

「そんなこと言ったって見えない……うわぁっ!」

「きゃああああっ!!」
「うわあああああっ!!」
「きゃっ…!!」

ドサッ

四人は、ドミノのように重なり合って倒れていった。
四人の姿は、垣根から完全にはみ出ていて、丸見えだった。

「いったぁ〜…。」

「お、重い…。」

「はやくどいて…。」

「あぁうん、ごめ……ぎゃあ!!」

突然の悲鳴で、いったい何事か、と三人は辺りを見回した。
すると、目の前に誰かの靴が見える。
恐る恐る視線を上げていくと、そこには怒りに満ちたイスピンが立っていた。

状況を把握した四人は、即座に立ち上がり、イスピンの前に綺麗に整列した。

「なんでここにいるの…?ここでなにしてるのっ!?」

イスピンが怒鳴った。四人は、しゅんとうなだれている。

「えっと…あの…。」

「何!?」

彼女はぎろり、とルシアンを睨む。
言い訳をしようとしていたルシアンは、その剣幕に押され、口をパクパクさせていた。
そして…、

「…ごめんなさい。」

『…ごめんなさい。』

ルシアンに続き、三人も一緒に謝った。
しかし、イスピンの怒りはそれだけでは治まらないようだった。

「…なんでここにいるの?」

もう一度、聞いた。しかしその声は、低く唸るようだった。

「えっと…ほ、ほら、最近付き合い悪いじゃん?で、なにしてるのかなーと、思って…。」

「他のクラスの子に聞いたら、委員会はやってないっていうから…。」

「…で??」

「…実は、教室を出た時からずっとつけてきたの…ごめんなさい。」

「はぁっ!?つけてきた!!??」

『ごめんなさいっ!!』

四人はもう一度頭を下げた。

「何それ、信じらんない!!ひどいよ、何よそれ!!」

イスピンは感情にまかせて叫んだ。
四人は黙ってそれを聞いている。

元々、よくイスピンに怒鳴られているルシアンはこういうことは慣れっこで、飛んでくる説教も右から左へと聞き流していた。
それにしても、今日はやけにしつこいなぁ、と思いながら視線を上げると、視界の片隅に動く何かを見つけた。
よく見ると、人間だった。学園の制服を着ていて、見たところ、同じくらいの年の男の子だった。
彼は不思議そうにこちらを見つめている。
そういえば、イスピンはあの子と何かみたいだった事を思い出した。

「…ねぇ、イスピン…。」

「え?何よっ!?」

「あの子、誰?」

と、ルシアンは彼を指差した。
イスピンは思わず、えっ!?と叫び、ルシアンの指の先の彼を見る。
他の三人も、ルシアンに指摘されてそっちを一斉に見た。

「え、えっと、その…。」

「そういえば、さっきからずっといましたよねぇ?」

「見たことない顔ね。」

「あああああっと、うんとね…。」

イスピンはどう見ても焦っている。
いつも(どちらかというと)冷静で、優等生器質のイスピンが、こんなに焦るのは珍しかった。

「ふーん、そういうことね。」

レイが小さな声で呟いた。隣にいたティチエルはそれが聞こえたようで、その意味を理解すると、にっこり笑った。

「知り合いなら紹介して下さい〜。」

「そーだよ水臭い!僕ら友達じゃん!」

「友達ぃ〜?」

一体いつルシアンと友達になったんだ?、とイスピンは顔をしかめた。
しかし、イスピンは諦めたように溜息をついた。

「…こうしてても仕方ないし、それに、一応説明もしないとね…。」

そう言って、イスピンは遠くにいる彼を見た。
しかし、すぐさまルシアン達を睨む。

「とりあえず、紹介するけど、絶対、絶対、僕のこと『イスピン』って呼ばないでね!」

「はいっ、わかりましたぁ〜!」

「え、何で?」

「何ででも!!いいから、絶対呼ばないで!!」

「だからなんでだよ!」

納得いかないルシアンを無視し、イスピンは待たせている彼の元に走って行った。

「はぁ〜??意味わかんない!」

「まぁ、とにかくイスピンの言うとおりにした方がいいよ。」

「え〜…。」

「…じゃないと、後が怖いよ…今日のイスピン、なんかいつもより怖い。」

「うっ…確かに…。」

イスピンには勝てないと悟ったのか、ルシアンは肩を落とした。
しかし、イスピンの最大の弱点が目の前にあることを、彼はまだ知らなかった――。

site up 08----